忘れられない光景があります。幼児クラスを指導していた時のことです。
あどけない表情でお母さんの方を何度も振り向いていた３歳の女の子。こわごわとした足取りで、自分の背より高い跳び箱に向かいます。手をかけ、足をかけ、しがみつく。「縁をつかんで」と思わず声をかけてしまいます。ようやく上った女の子はくるっと振り返り、「みてくれた」と言わんばかりに満面の笑みで、小さな手のガッツポーズ。こうした時、意気揚々とした子どもたちの鼻はぷっくりふくらんでいます。

福岡市内を中心に約３０年間、子どもの運動スクールに携わってきました。父が他界し、独りになった母の老いを感じ、５０歳を前にして立ち上げたのが、中高年向けのチアダンス「グランチア」です。

メンバーは５０代から８０代。最高齢は８４歳のもみじさん。ポンポンを手にして、お気に入りの音楽に合わせ踊ります。「また忘れた～」「間違えても気にしない」と、時には冗談を交え、仲間たちとの楽しいひとときです。そして、大きな舞台で演技が決まるとみんなも、あの女の子のように、鼻の穴がふくらむのです。

この瞬間を見るために、私はこの仕事をしているようなものです。
アプローチはさまざまでいい、少しだけの勇気を持って、半歩でもいいので踏み出すことが大事だと、そのお手伝いができたらと思っています。

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